食事の工夫で胃の機能低下を補う
胃の手術を受けた後は、大幅に消化・吸収機能が低下します。胃の調子が手術前の状態に戻るまでにはある程度の時間がかかりますが、体力を回復させるためにもしっかりと食べることを目標にする必要があります。手術後しばらくは後遺症として下痢や腹部の重苦しさ、胸焼けなど不快な症状が起こることがあります。しかし、食事に気を配ることによって症状のコントロールにつながることも少なくありません。機能の低下した胃をいたわりながら健康な生活を維持していくには、手術前の食事を見直し手術後に適した食事習慣に改善していくことが必要です。具体的にどんな食事をしていくことが大事か、見ていきましょう。
退院後の食事について
胃がんの場合、健康だった時と比較すると食生活が大きく変化します。そのため、手術後や退院時期が近づくと、多くの病院では退院後の食事の量や回数、食べる時の注意点などについて医師や栄養士などから細かな食事指導が行われます。
毎日の食事は、健康維持のためにも体力回復のためにも非常に重要です。退院後の食生活に対して不安を感じている人やわからないことがある人はしっかりと聞いておくようにしましょう。
基本的に食事制限はない
食材に関しては、基本的に何を食べても問題はありません。医師や栄養士などから特別な制限がない限り、栄養のバランスが取れていて消化の良いものであれば好きなものを食べられます。ただ、手術で胃を小さくしたり、全部切除してしまったために一度に多く食べることができなくなります。すぐに満腹感を感じ、食べすぎると気分が悪くなることがあるのです。調理方法によっては不快感を助長する場合もあります。当分の間は食生活を変えざるをえませんが、二~六か月ほどすれば慣れてきます。手術後1年ぐらいは無理をせず、回復の程度に合わせて食事内容や量、回数を調整していきましょう。そうすることで食べられる量も徐々に増えていくはずです。
嗜好や味覚の変化には神経質にならずに対応
手術後は食べ物の好みが変わったり治療の影響で味覚に変化が生じたりすることもあります。例えば、手術前は好物だった肉料理が食べられなくなったり、牛乳や甘いものが嫌いになったりすることがあります。また、食べ物の味が以前とは違って感じられ、苦味を強く感じたり、逆に甘みを強く感じたりあるいは金属的な味に思えたり味を感じなくなったりするため、食べても美味しいと思えず食欲も低下しがちになります。
しかし、日によって味が違って感じられることもあり、一度食べにくいと思われたものでも何日かすると違和感なく食べられることもあります。あまり神経質にならず少しずつ試してみるなど柔軟に対応しましょう。
体重が減ることを心配しない
胃の手術後は食事量が少なくなるために、必ず体重が減ってきます。体重が手術前に比べて10~15%ほど減少し、太れないことを気にする人も少なくありません(上グラフ参考)。以前に比べて痩せてくると、不安な気持ちになるのはわかりますが、手術前の体重まで戻らなくても問題ありません。
多くの場合、手術から数ヶ月経過すると体重減少に歯止めがかかり次第に回復していきます。多少の体重減少はあったとしても。1日3食プラス間食をきちんと食べることができ、適度に体を動かして体調さえ良ければ、心配する必要はありません。焦らずに少しずつ自分にあった食べ方を見つけ、好きなものを食べて体力をつけることが大切です。ちなみに、胃を切除した人の平均体重は手術前の体重の約90%です。
不快な症状を抑えるには
手術で胃が小さくなったりなくなったりするために、一度にたくさん食べたり食べるスピードが速すぎたりすると、後遺症として様々な不快な症状が出てきます。主な後遺症にはダンピング症候群、小胃症状、逆流性食道炎などがあります。いずれも食べるスピードや量に手術後の消化器官が対応しきれなくなるために起こるもので、これらの後遺症を抑えるためには食事の取り方に工夫が必要になります。
慣れるまでには少し時間がかかるかもしれませんが、家族などの協力を得ながら自分に適した食事の取り方を見つけていきましょう。
後遺症を抑える食事の取り方
手術後の食事で大切なのが美味しく楽しく食べることです。食事に伴って起こるダンピング症候群や小胃症状、逆流性食道炎などの症状を抑え、気分良く食事をとるにはコツがあります。不快感を減らす食べ方のポイントを知っておきましょう。
一回の食事は少なめにして回数を増やす
胃の手術後は一度にたくさん食べることができないため、退院後2~3か月は一回の食事量を少なめにしてその分食べる回数を増やします。
少しずつ、ゆっくり食べる
一口の量を少なめにしてゆっくり唾液と混ぜ合わせながら食べることが大切です。よく噛むことで食べたものんが細くなり、消化酵素を含んだ唾液の分泌も盛んになって食べものが消化管の中をスムーズに移動できるようになります。ダンピング症候群は一度に大量の食べものが小腸の中に入るために起こりますが、少しずつ食べることでそれを防げます。
食事は時間を決めて規則的にとる
1日3食を決まった時間に食べることを習慣づけると、自然にその時間になるとお腹がすくようになります。規則正しい時間に同程度の量をとることは、毎日の排便を安定させる上でも効果的です。一食だけたくさん食べて、あとはその日の気分によって食べなかったりするような不規則な食生活は手術後の回復の妨げになるので注意しましょう。
食事の後はすぐに横にならない
逆流性食道炎を抑えるには、食後すぐに横にならないことも大切です。仰向けに寝たりすると、食べたものの多くが手術で小さくなった胃の中に溜まってしまい、なかなか小腸の方に出て行きません。そのため、胃が重苦しくなったり、消化液の逆流によって胸焼けが起こったりします。食後は座って休むか、散歩をするなどして食べたものが自然に小腸に流れやすい状態にしましょう。
また、食後に横になりたい時は、食べたものが逆流しないように上半身を少し起こした状態を保ちます。
胃がんの手術後の食事には不満も伴うところではありますが、しっかりと無理をしない食事の取り方を進めていくようにしましょう。